「ミドリ、この――」

「これ、どうしたの?」

 思わず掴んでしまった千紗の腕には、くっきりとした痣。

 それに、保健室にいた千紗の頬は若干赤く熱をもっていた。

「ぶつけたんです。掃除の時、椅子を下ろすのに失敗して」

 するりと俺の手から抜けた千紗の腕は、再び一番上のファイルへと伸びていた。

 掃除の時ぶつけたとしたら、おかしくないか?

 大きさとか場所とか。
 それに、ひとつじゃない。

 俺を避けるように隣の準備室に向かう千紗の背中を見ながら、無理にでも聞く必要があるんじゃないか、と思った。

 とりあえず、生物準備室に戻り帰る支度をしてからもう一度戻ってくるか。

 千紗の背中がドアで隠れたのを見て、生徒会室をあとにした。

 廊下ですれ違う生徒もまばらになり、数人の足音が静寂した廊下に響き渡る。

 何故か、そのまばらな足音が異様に不気味に思えて、早足で生物準備室へと向かった。