「じゃ、そろそろ戻るかな。チャイム、鳴りそうだし」
「やっと帰る気になったか」
「コーヒー、ごちそうさま」
マグカップを流しに置いて、保健室を出ようとした時。
「なぁ、長谷川」
「ん?あ、もしかして帰ってほしくない?」
「ちっげぇよ。
聞きたいことがあるなら、本人に聞くことをオススメするね、俺は」
「分かってるよ。そんなこと」
石谷に言われなくても、千紗に聞くのが一番いいってことくらい。
だけど、心のどっかで怖いって思ってるんだろうな。
静かに保健室のドアを閉め、授業終了のチャイムを聞きながら廊下を歩き始める。
紗葉によれば、千紗が小学生の頃から俺のことを想っていた。
でも、紗葉がフランスに行ってから俺と再会するまで1年弱期間があったはず。
でもなぁ。
その間に好きな人が出来たとしたら、今度は『昔から好きだった』っていうのが、引っ掛かる。
「………マジ分かんないなぁ」
生物準備室に行く前に、職員室に寄り、放課後会議があるかどうか確認し、再び廊下に出た。