「た、ただいま……」

「何なのよ、もう」

 タツキの態度が気に入らなくて、踵を返して部屋に向かう。

 はぁ、何よ、驚いちゃって。

 別に、大して変なことなんてしてないのに、あからさまに驚くなんて。

「ちーさー」

「何よっ?!」

 振り返ったと同時に。

 ふわり、と抱き寄せられた。

「あー、ビックリした。あんなメールだったから怒って実家に帰ったんかと思ったじゃん」

「別に、怒ってなんか……っ」

 ふっと俯いた時、ネクタイの右辺りに薄ピンクの染み。

 染みっていうかなんていうか、グロス、が付いてる。

 もしかして、と思ってぎゅっと抱きつけば、かすかに甘い香水の香り。

「千紗?」

 浮気、じゃないと思う。

 時間からしてたぶんタツキは、学校が終わってからすぐにこっちに来たと思うから。

 だから、女生徒――もしかして奏子さん?

「………ごめん」

 なんだか霧がかかったみたいな気分に、胸がキシキシ痛む。

 すっと、タツキの背中に回していた手を離し、背中を向けて廊下を歩く。