「……いってきます」

 そう呟いた後、左頬へ唇を落とす。

 タツキは気付いてない(たぶんよ、タブン)と思うけど、私の方が早く起きて家を出なくてはならない時に限って、『いってきますのキス』をしてる。

 もちろん、頬、に。

 それも、「あれ?さっき触った?」なんて本人も、触られたのか触られてないのか分からない、さじ加減で。

 下に置いてあったカバンを掴み、音を立てずにドアを開閉し、学校へ向かった。

 学校に着いてからは、袴(はかま)に着替え、真剣に部活に取り組む。

 練習試合といっても他校との交流試合みたいなもので、大して緊張しない。

 緩い空気の中でもやっぱり弓を構えると、ピンと張り詰めた空気に入れ替わる。

 交流試合が終わりささっと着替え帰ろうとした時に、他校の弓道部部長に捕まってしまった。

 部長同士だからって大した話なんてないのに、話し好きなのか一方的に話しをしていく姿に飽き飽きしたけど「私、興味ないのよね」など、口が裂けても言えるわけもなく弾んだ言葉にただ頷く。

 やっと名前すら覚えていない他校の人(私と同じ部長だったわよね?)から、解放され足早に家路を急ぐ。