「奈々……」
「なぁに?」
「顔が重いし、爪も重いし、まつげが眼鏡に引っ掛かる。カーディガン動きにくいし、リボンとか似合わないし……ローファーも歩きにくかった」
「我慢しなさいよ」
「あと視線が痛い」
「誰も透だなんて気づかないわよ」
まあ……気づかないのも無理はないと思う。
真っ黒のストレートロングの髪。赤い眼鏡の奥はバサバサのまつげに、つり目風のアイラインにブラウンゴールドのシャドウ。
唇にはピンクベージュのグロス。爪にはデコ盛りの付け爪。
顔だけでもかなり別人なのに、制服までミルクベージュのカーディガンに赤いチェックのリボンだなんて。
いつものあたしとはまるで真逆だ。つまり奈々に近い。
あと、上靴に底上げのシートが入っていていつもより目線が高くなっていた。
違和感ハンパない……。
「あの子誰?」
「超キレーッ」
「転校生かな」
廊下を歩いていると周りがヒソヒソと噂する。あたしは眼鏡を押し上げて、誰とも目を合わせないようにした。
奈々が先に教室に入って、あたしは廊下で待つ。
ジロジロ見られるって、あんまり気分良くないな……。
「入っていいわよ」
奈々がそう言ったけれど、あたしは気まずくてゆっくり教室に入る。
その瞬間、クラスメイトが悲鳴をあげた。
「すげーっっ! 超キレーじゃん!」
「奈々ちゃんぽい!」
「まじかよーっ!!!」
ワラワラと周りに笑顔のクラスメイトが集まる。
あたしはその空気に感化されて、少し戸惑いながらもキリッと顔を上げて微笑んだ。
「ごきげんよう、皆様」
「「「あはははははっ!」」」
「何か知らねーけど、ドッキリすんだろ? 昴先輩に」
「その姿じゃ言われないと気付かないよーっ」
「まぁ頑張れよ~。1-3全員協力するからな!」
奈々ちゃん……ドッキリって、一体どんな設定なのかしら……。
あたしは友達と言葉を交わしながら自分の席ではなく、忍の席、窓際の一番後ろに座る。忍はあたしの席に座ってくれた。
果たしてここまでやる意味があるのかは、分からないけど……。
これで昴に会わなくて済むのなら、これで良かった。