「なんっでやねん! 普通手作りチョコやろ!? 彼女なんやから彼氏には手作りやろ!」

「なぁにそれ。大体にして私がチョコをあげるなんていつ言ったのかしら」


あぁぁ~……翔太がアメーバみたいになってくぅ~……。


「奈々って手作りしなさそうだね」


隣にいたキョウがあたしに聞こえる程度にポツリと言葉を発し、それに影響されるように小さな声で返す。


「奈々が手作りなんてするわけないよ……」


中3のバレンタイン。奈々にチョコを貰ったけど、手作りではなく買ったものだった。


「こんなものでよければ」って渡してきたのは、有名チョコブランドの箱詰めだったんだよね……。


そんな高級なチョコをこんなものって言う奈々のお嬢様っぷりを垣間見た瞬間だった。


でもあれ凄い美味しかったなぁ……。おっといけないヨダレが。


間一髪のところで緩んだ唇を引き締めると、翔太に名前を呼ばれる。


「透はもちろん手作りやろ!?」

「え? まあ……下手くそなりに手作りの予定だけど」


チラッと隣に座る昴を見ると、優しい笑顔を見せてくれた。


ポッと頬を赤くしたあたしを見てクスクス笑う王子様。最近やっと恥ずかしさに慣れてきたけど、相変わらずドキドキは止まらない。


「ほら見ろ奈々! 透でも手作りなんやで!? 透に出来るんやったら奈々にも出来るやろ!」


透でもって! 透に出来るなら奈々にも出来るって! 翔太、超失礼っ!


「ちょっと翔太! 言っとくけど、あたしは奈々より料理出来るんだからねっ」

「嘘やん! んなアホな!」

「奈々はタコさんウィンナーすら作れないんだよ!」

「超初歩的なやつやん! 普通作れるやろっ! 俺だって出来るで!?」

「奈々ってばなぜか輪切りにしたんだよ!」

「ぶふーーっ!!!」


キョウがたまらず吹き出すと、奈々が眉間にシワを寄せる。


奈々ってばタコだって言ってるのに、なぜか真ん中から真っ二つに切って、挙げ句の果てに輪切りにしたからね。


「なぁに? 食べられればいいじゃない。タコにして誰が喜ぶのよ」

「奈々? 本気で言ってるん? 輪切りって……ぶはっ!」


翔太が口を押さえて笑い出し、奈々は不機嫌そのもの。



こんな奈々に手作りチョコなんて、無謀に近いに決まってるんですよ……。