「抵抗すんなって」

「ひっ」


不意に耳元へ唇を寄せられ、いつもより低い声で囁かれた。


「せっかく我慢して…優しく抱いてやってんだから。ねっ?」


至近距離でくすっと微笑まれる。

背筋がぞくりとした。鳥肌が立つような感覚。今の、完璧に営業用スマイルだ。わかっているのに、顔に熱が集まっていく。悔しいけど赤くなっているのが自分でもはっきりわかる。


わたしがおとなしくなったからなのか、シイヤは満足そうに笑い腕の力を緩めた。




「あっ赤くなった。照れてんの?かわいー」

「へ、変な言い方しないで!シイヤのばか、変態、二重人格!」

「うわ。それひどくね?」

「あんたなんか……大嫌いなんだから!」



それは、勢いにまかせて口走ってしまった言葉。

シイヤは一瞬だけ、一瞬だけ無表情になった。でも、はっとして瞬きをした後にはいつも通りの彼に戻っていて。



「いいよ?別に嫌いでも。だって俺…あの時言ったじゃん」


思い返すように目を伏せるシイヤ。

〝あの時〟それがいつを示すのわかった途端、心臓がどくんと大きく脈打った。




「〝俺のこと…憎んでいいよ?〟」



あの時と同じセリフを口にして。再現するかのように、彼はとても哀しそうに微笑んだ。


直視できなくて、思わずわたしは目を逸らす。胸がギリギリ締め付けられる。呼吸ができない。そんな感覚に陥った。

断ち切るようにぎゅうっと目を閉じた。同時にあの時の光景が鮮明に蘇ってきて…。苦しいよ、いやだ…思い出したくないのに…。




「…ごめん」


気づけば、少し皺のついたシイヤのシャツを縋るように握っていた。

その掠れた声を合図に、慌てて手を離し俯く。