「俺たちにだって全てをゼロにできる日がきっとくるよ。それにさ…俺にとって妃憂は最後の救いなんだ。お前がいなかったら、俺…ほんとに独りだ…」


俺たちの関係は、はっきりいって許されるようなものじゃない。咎められるべきもの。

妃憂の光になりたい、と俺がどんなに願っても、一生叶わないだろうけど、同じ暗闇で救いを請う者同士、孤独は癒せている。


例え、俺の単なる思い込みでしかないとしても…

俺には、妃憂が…





「やさしい、ね」


そのとき、彼女の唇が笑みを浮かべた。


「シイヤは優しいんだね。でもそれはちがうよ、うそだよ。わたしは…あんたの救いにはなれない」

久しぶりに見た笑顔は、哀しみ一色で。

自分の体からすうっと体温が奪われていくよう。冷たい感覚が全身を支配する。

どうして俺は…こんな風にしか妃憂を笑顔にできないんだろう?



「いつも言ってんでしょ?わたしたち傷つけ合うことしかできないよ…。許されない、誰も理解なんてしてくれない…」

くしゃっと歪められる表情。

罪悪感のようなものが背中を駆け上がった。




「シイヤはわたしを好きって言ってくれるけど…それもちがうよ」

「っ、そんなこと」

「妃紗なんでしょう?あんたが本当に好きなのは、わたしじゃない。妃紗だよ…同じ顔だからってわたしに妃紗を重ねないで…!」


妃憂が俺の手の中から自分の手を引き抜く。冷たい体温さえ失った俺の手は、宙を彷徨い床へと落ちた。


そんなことないって、言えなかった。

…なぜ?
妃憂に遮られたから?
言うタイミングが上手く掴めなかったから?

本当か?本当に、そうか?

なんだか自分自身にさえ、言い訳がましく聞こえてくるよ。