「わぁ…やっぱしかっこいー!」

「こんなホラーもの好きだったんだ?」

「ううん。ホラーは嫌いだけど、この映画は陰湿な感じじゃないから。主人公が強いから、なんかまだ観てて救いがあるっていうかさぁ…」


妃憂が途端に冷めたような顔になり、黙り込む。

彼女が今なにを考えているのかが、不思議とわかってしまう。


例え自分の周りが、なにも見えないような暗闇に包まれていたとしても、僅かだけど照らしてくれる光が現れれば、それは絶望の中に生まれた希望になる。どんなに小さな光であろうとも、思わず縋りたくなってしまう。

人間は弱いから。常になにかに縋っていたいんだ。いつだって、小さな小さな救いの光を探している。





「映画はいいなぁ」

焦点の定まらない瞳で妃憂が呟く。


「ちゃんと希望が存在してる。必ず救いがある。シイヤが帰ってくるまでの間…わたし、ずっと真っ暗な部屋に一人だよ。真っ暗なとこにいるのに、光なんて全然見えてこないよ。嫌なことなら思い出すのに…」


テレビからは悲鳴のような声が聞こえるけれど、セリフをうまく聞き取れない。妃憂の声だけがはっきりと聞こえてくる。

画面がチカチカ発光し、彼女の横顔に影を生み出した。なんて…寂しそうな表情。



「現実に、救いなんてありえないよね」


朧気だった瞳は、一瞬で鋭い冷たさを宿した。


救い…。

妃憂にとっての救いとはなんなんだろうか。