ぽんぽんと頭を撫でると、うっさいなぁ!と手を振り払われてしまった。

ところが強気な言葉とは裏腹に妃憂は真っ赤。やっぱり図星だったのか。

こんな時間に帰ってくるのは俺しかいないって。いつも言ってんのにな。


かわいいとこあんじゃん。

そう…、怯えるのが幽霊のように、本当に存在しているのか定かではないような物の内はまだいいんだよ。この世界で一番恐ろしいものは、人間だ。実際、俺たちにとって本当に怖いものだって…あいつらなんだから。実在している、人間なんだから。




青白い光を放つテレビの前に、妃憂と共に腰をおろす。

画面の中では真っ暗な建物の中を彷徨っている数人の人間。いかにも〝これからなんか出ますよー〟な雰囲気。



「お前、ちゃんと寝とけって何回言やわかんだよ」

「だーかーら!よくわかんないけど、寝ないんじゃなくて寝れないだけなの。それに…このDVD今日返さなきゃだし」


体育座りをしている妃憂は顔半分を両手で多い、指の隙間から画面を見ている。

怖がってたクセに、そこまでしてでも観たいんだろうか。

怖いものほど見たくなる。危ない橋ほど、渡りたくなってしまう。それが、人間なんだろうけど。



「怖いなら観んなっつーの。それになんでゾンビ?」

「だって、この映画は主人公の女の人強くてめっちゃかっこいいんだもん。ほらっ!」


急に愉しそうな表情に変わり、画面を指差す。

細身の女性が、大柄な化け物相手に見事な蹴りを繰り出していた。

いや、普通に考えたらありえないだろ。