帰り道に着く頃、外はもう朝方になろうとしていた。

いつもなら遠くの方が明るくなり始める時間帯なのに、まだ真っ暗な空。今日は雨でも降るのだろうか。



…雨。

誰もいない道に一人立ち止まる。

そうだ。確か、あの夜も雨だったな。


【たすけて】
妃紗からこの一言のメールをもらった夜も…冬なのに、細い雨が降っていた。


必死に走ったけれど、間に合えなくて。駆けつけたとき、俺が目の当たりにしたのは、妃憂が妃紗を失う瞬間。

約束したのに、守ってやれなかったんだ。


そして、あの夜から妃紗は眠りにつき、妃憂は自分を責め続けている。

一年経った今でも変わることはない。ずっと止まったままの、時計の針。

妃憂を、妃紗を、俺を…縛り続ける記憶。





鍵を差し込み、できるだけ静かにドアを開けた。


「…なにしてんの?」

「っ……もう!驚かさないでよ!!」


電気もついていない真っ黒な部屋の中、胸の前で金槌を両手で握りしめた妃憂が立っていた。

普段は迎えてくれるときは大概不機嫌…というか、とにかく笑顔ではないんだけれど、今日の表情はなぜか強張っている。

一体なんなんだ?




「なんで金槌………あっ」

そのとき、彼女の背後のテレビがついているのに気づいた。

画面に迫りくるのは、かなりグロテスクなゾンビの大群。もしかして…



「妃憂…俺のこと幽霊かなんかだと思ったの?」

「…ちっちがうし!ただ、急に玄関からガチャガチャ音したからっ!変なやつでも来たのかと…」

「はいはい、怖かったんだろ?かわいいなぁ」