「それに…」


伏し目がちだった目を、真っ直ぐに俺へ向ける。


「小さいときからずっと、大嫌いな女の子がいるんすよ」


その声がやけにクリアに耳へと滑り込む。

並べられたのは、ゆっくりな口調とはかなりギャップのある言葉。



「実際に会ったことなんてないし、名前もどこに住んでるのかとか、本当に一切知らないけど…ずっと、大嫌いな子がいるんすよねー…」


また独り言を言うように呟くと、ミケは部屋を出ていった。


意外だった。

ミケみたいなやつにも、嫌いな人間てのはいるのか。〝苦手な人はいるけど嫌いな人はいないっすよー〟とでも言ってそうな温和なイメージだったんだけど。


…ってまぁ、そりゃそうだよな。あいつも人間なんだし当たり前か。

敵がいない世界ってのも、それはそれである意味気味悪いし、嫌いな人はいないよって言うやつも胡散臭い。



…そう納得はしてみたんだけど、どうしても変な違和感が残ってしまう。心の底にこびりついた奇妙な感覚。

それを消し去るように、俺は再び雑誌に視線を注いだ。