「今日は…帰り遅い?」


無難な質問を選ぶ。間違っても、あんなこと言っちゃいけない。


「うーん…わかんね。アフターとかなしなら昨日よりは早いけど、そうゆうの全部客によるから」

「そっか、そう…だよね」

「うん。とにかく夜中にはなるから、ちゃんと鍵閉めとけよ?知らないやつ来ても、ドア開けんじゃねーぞ」

「わかってるよ、そんくらい。小学生じゃないし!」




その時、赤信号の向こうに小さくバスが来るのが見えた。慌ててシイヤがバスを待つ人の列に走っていく。すぐに車が行き交い、彼の姿が消されてしまった。


もう一度だけ背後の病院を振り返る。

妃紗。また来るからね。今度来た時は一緒に笑ったり…してくれる?


恐らく叶わない。

きっと届いてもいない。


小さな願いを胸に、わたしも歩き出した。冷たい風が通り抜けていく道を。





【失ってしまった少女】

((早く、自分を取り戻して))
((でももし目覚めた時、君はわたしになんと言うんだろう?わたしを責める?それとも…許してくれますか?))