ココアとコーヒーを飲み終え、病院を出た。

さっきまで晴れていたのに、空は薄い雲で覆われている。灰色の景色。バス停までの道のりを歩いていく。風が吹く度、地面に溜まった落ち葉が舞う。



「妃紗、相変わらずだったな」


シイヤが前を向いたまま言う。

そりゃそうだろう。相変わらず、としか言いようがないよ。悪くはなっていないけど、決して良くもなってはいないんだ。

ずっとずっと、妃紗の時間はあの日から、止まったまま。



「シイヤ、この後どうするの?もう仕事行く?」

「いや、まだ時間あるから一旦家に…」


その言葉の途中だった。遮るように着メロが鳴ったのは。


シイヤは急いで携帯を取り出す。

ディスプレイに表示された名前に、僅かに表情が曇ったように見えたのは見間違いだったのだろうか。



「もしもし―――」


立ち止まり、わたしに背を向け電話に出た。

声はいつもより低め。きっと相手は客なんだ。

シイヤは男にしてはそこまで低い声じゃないことを気にしてたから。作っているんだな、やっぱり。



足元にあった木の葉を踏む。パリッと乾いた音がした。


「…え?待ち合わせ時間早くするの?」


でもこんな小さな音じゃシイヤの話し声は消せない。全て聞こえてきてしまう。あんまり聞きたくないのにな…。


シイヤなんかいなくても平気だ、と。普通にそうやって言えるクセに、どうして…他の女の人と話している彼を見ると、こんなにも複雑な気持ちになるんだろう?

すごく、すごく。嫌になるくらいに矛盾してる。