軽く食事をとり、2人でアパートを後にする。

シイヤと一緒に出かけるなんて本当に久しぶり。

途中にある小さな花屋でシイヤは真っ白な小さい花を買った。甘い香りのする花。それから電車とバスを乗り継ぎ、わたしたちは目的地へとやってきた。


小さな森に囲まれた白い建物。

大学付属病院。ここらじゃ一番、大きな病院。



病室の扉の前に立つ。いつもこの瞬間に緊張と罪悪感のようなものに襲われる。それと同時に芽生える淡い期待。



「開けるよ?」


ドアノブに置いたままのわたしの手に、シイヤが自分の手を重ねる。

わたしは落ち着かせようと細く息を吐き、扉を開けた。




個室には穏やかな秋の日差しが降り注いでいた。空のベッド。細い花瓶の中には見慣れない花。


そして…窓際の車椅子に座っている、一人の少女。

この世界にもう一人だけ存在する、わたしと全く同じ容姿を持つ少女。



彼女は人形のように無表情。その唇は言葉を紡がない。汚れなんて一切ない、透明な大きな瞳で床のある一点をじっと見つめているの。指一本動かさず。


…いつもと同じ光景。また今日もなにも変わっていない。