「じゃあ、妃憂は今日暇ってこと?」


なにか思いついたらしく、シイヤは期待の眼差しを向けてくる。


「めちゃくちゃ暇ですけど。なに?俺は働いてんのにのんきに欠席してんじゃねーよ!って仰りたいんでしょーか?」

「うわっすげ…嫌味かそれは。ちげーよ。久しぶりに、妃紗のとこ一緒に行かね?」



その穏やかな声が、妃紗の名前が、やけに大きく聞こえた。


一緒に、ね。

シイヤとわたしは起きてる時間がちがうから、なかなか一緒に行く機会がなかったのは確か。最後に一緒に訪れたのはかなり前。


妃紗だってきっと、シイヤのこと待ってるんだろうな。


自分で思っておきながら、少し寂しくなってくる。この思いをごまかすように、わたしは彼に向かって微笑んだ。



「いいよ?家にいたってほとんどすることないし、行こっか。一緒に」


次の瞬間、シイヤはとても嬉しそうに素の顔で笑った。

なぜか胸がちくっと痛む。


ねぇ。どっちの意味で笑ってる?わたしと一緒に行けるから?それとも久しぶりに妃紗に会えるから?

それは、どっちの笑顔?




「よっしゃ!じゃあ飯食ったらすぐ行こっ」


言うが否や、シイヤは機嫌よさそうに部屋を出ていった。



ひとりになった部屋で自分自身に問いかけるの。わたしは、彼をあんな風に笑わせてあげることができる?ってね。

…無理だよね、わたしには。絶対に無理だよ。妃紗とわたしは同じだけど、別人。似ているようで正反対。一見代わりになっているようで、わたしに妃紗の代わりは務まっていない。


シイヤが求めているのは…やっぱり、わたしじゃなくて妃紗なのかな…。