━━妃憂━━




いま、なんじなのかな…


ぼんやり、と頭の片隅でそんなことを考えながら、わたしは真っ白いシーツに体を沈み込ませていた。



もう何時間こうしているんだろ。今何時?

ベッドの後ろの壁にかかっている時計を見る気さえ起きない。ただ、目の前の大きなガラス戸から見える、空と海の境目をからっぽな心で見つめていた。

見える景色は遠くの方が少し明るくなってきている。海の色が、藍色から青へと戻っていく。煌いていた星たちも少しずつ姿を消し始めた。薄い紫色の空。夜が明けていくんだ。

もうすぐ…朝なのね。



窓ガラスにはわたし自身の姿も半透明に映し出されている。無気力な瞳。色のない表情。

この世界には、わたしと同じ容姿をした少女がもう一人だけ存在する。鏡に映したように本当にそっくり。でも、性格は正反対。

同じ顔、同じ背丈、髪の長さだって同じ。外見は全く同じなのに、わたしはあの子みたいに優しくも、綺麗でもない。


わたしは…だってわたしは…





映っていた表情がかすかに歪む。ガラスに透けているわ。このまま…消えていっちゃえばいいのにな。

でも、彼は―――シイヤは、泡のように消えることを許してくれなかった。


シイヤは本当はわたしなんか好きじゃないんだよ。彼の隣にいるのは、わたしじゃなくてあの子のはずだった…。彼とわたしたちは出会ってはいけなかったの。

それなのに、くだらない運命ってやつは残酷で。


あの夜に、私と彼を出会わせてしまった―――――。






―――ガチャ…


海から静かに響いてくる波の音に耳を澄ませていると、玄関からその音が聞こえてきた。


帰ってきたんだ。

職業上、朝帰りなのはよくあること。たいして珍しくもない。