血も拭わずにベッドに腰掛け、ぼんやりと床を見つめていた。

気づけば夜は明け始めていた。




不透明な視界の隅で揺れる人影。

だんだん、こっちへ近づいてくる。私のすぐ目の前に立ったとき、窓から差し込む光に、彼の綺麗な金髪が透けた。


目が、とても悲しそうに歪む。





『ノックもなしにレディーの部屋入ってこないでよー』

『また…切ったのか?』


私の手首を一瞥して、抑揚のない声を零す。



『なぁに?だめなの?いいじゃん別に。サエが痛い思いするわけじゃないし』

『よくないだろっ!!』


サエは私の肩を掴み、壁に押しつけた。

至近距離で交わる視線。いつもは眠たそうなぼんやりした瞳が、今ははっきりと開いている。

あの人に、とてもとてもよく似た瞳。




『あれっ。サエ怒ってんの?珍しいねー』

『怒るに決まってんだろ!好きなやつがこんなことしてんのに、心配しないやつなんているかよ!もう…やめろよ…』


肩を掴む力が更に強くなる。

でもそこまで痛くはなかった。この掴まれる力よりも、サエが私を見る瞳の方が。そっちの方が、よっぽど痛い。


ねぇ。
そんな悲しそうな目をしないでよ。あなたはもうこれ以上、悲しまないでよ。




『好きだよ』

『…っ?!』

『私、サエが好きだよ』

『だったら…なんで?いつも兄貴ばっかり…!』

『だって、サエに対しての好きは…"愛してる"には、ならないもん』




自分でも驚くほど、さらりと。口を滑って出た言葉。

一瞬息を詰まらせ、サエはうつむいてしまった。

力が抜け、肩に添えられただけの手が震えている。