そのときだった。脇にいくつも並ぶ店から出てきた誰かとぶつかったのは。


『きゃっ…!』

『って!』



思いきり鼻をぶつけ、派手に尻餅をついてしまう。

…やばい。こんな危ない通りでぶつかってしまった。相手はどんな人?変な場所へでも連れ込まれたらどうしよう…。目に溜まっていた涙が一気に頬へと流れた。


すると、恐怖と緊張で地面に座り込んだままのわたしの目の前に手が差し伸べられる。一瞬、自分の目を疑った。




『大丈夫か?ってか、お前こんなとこでなにやってんだよ?』


手を見つめ固まっていると、降ってきた柔らかい声。まるでわたしを知っているかのような口振り。…誰?


恐る恐る顔を上げる。

見上げた先には、少し気崩したスーツ姿の若い男。明るい色の長い前髪から覗く、綺麗で真っ直ぐな瞳が印象的だった。


それが、予想もしていなかったわたしとシイヤとの出会い。





『…え?えぇっなんで泣いてんの?!わりっそんな痛かったか?』


わたしの頬を伝う涙に気づき、男は慌てたように早口で言った。

…誰なんだろう?なんでわたしを知っているような話し方を?見た感じ、年齢はたいして変わらなさそう。外見がそこらへんを徘徊しているホストによく似ていた。ホストなんだろうか、こいつは。だから、こんなにも馴れ馴れしく話しかけてくるの?




『えと、あの…すみませんでした!』

『は?急になに言って…ってちょ、おいっ!』


自力で立ち上がり、それだけ告げるとわたしはまた走り出した。

ホストなんかに構っている暇はないもの。あの男から逃げなくちゃいけないの。早く家へ帰らなくちゃ。あの子の無事を確認しないと…。