白い満月に照らされた、とても綺麗な青い夜だった。

地面には、月明かりで自分の影が浮かぶ。




『はっ…ハア、ハァ…』


制服姿のわたしは目に涙を浮かべ、息を切らしながら必死に夜空の下を走っていた。


逃げなくちゃ、いけなかったの。

学校からの帰り道、絶対に会ってはいけないあの男に会ってしまったから。わたしの腕を掴み、無理やりどこかへ連れていこうとした。死に物狂いで抵抗して、あいつの腕から逃れたんだ。わたしを追ってくる足音がはっきり聞こえてくるから…振り返らず、休みもせず、ただひたすら夜空の下を走っていた。


走り続け、気づけば駅前の大通りから少し外れたキャバクラやホストクラブといった、そういう系のお店がひしめく通りに迷い込んでしまっていた。

綺麗な月明かりがネオンにかき消されてゆく。偽者の光が覆い尽くす空。豪華なドレスを身に纏った女性。スーツ姿の若い男。客の呼び込みをする声。行き交うたくさんの人々。


…どう考えても、女子高生がくるようなところではない。あの男から逃げるため。早くこの通りを抜けるため。

混乱しながらも、わたしはその間を縫うように逃げ惑っていた。