「こうやまっ?かみやまだと思ってた」
翔人がからかうように言う。
「うん、こうやま。よく間違えられるけど、間違えないでね」
からかうように言われたことに少しむかつき、キツイ言い方になる。
きっとこーゆうとこがかわいくないんだろうなあ……。
「ふーん…かみやまさんね」
八重歯を覗かせながらいたずらに笑う翔人。
「だからこうやま、だってば」
さらにむきになるあたし。
別にそんなに怒ってるわけじゃないんだけど……なんかむかつく。
「絶対かみやまだろーっ。なあ、結城(ゆうき)」
結城と呼ばれた男の子、翔人の前の席の彼が振り向く。
短い黒髪をワックスで綺麗にセットしていて、健康的に日焼けしている。
小物や鞄から推測するとサッカー好きだと思われる。
「翔人、入学式早々ナンパするな」
結城が呆れたように笑いながら言う。
「ナンパじゃねーよ。苗字がおもしろいから興味あるだけ。だって普通かみやま、って読むだろ」
「確かにそうだけど…」
「だからさ、もうかみやまでいいじゃん」
翔人があたしに向き直り言う。
「意味分かんない。かみやまじゃなくてこうやまだし」
そんなあたしの正論をよそに、あたしはその日から「かみやま」と呼ばれるようになってしまった。
そしてそれと同時に翔人たちに必要以上に構われるようになった。


翔人たちは常にグループで固まっている。
翔人や結城を含めた5人くらい。
学年でも目立っていて、先輩たちからも人気があった。
あたしはと言えば、夏紀や結衣と一緒にいることが多く特に目立っているわけでもなかった。
目立ってはいなかったけれど翔人たちのせいで、1年生の間で「かみやまさん」が有名になっていた。