大斗はパンッと立ち上がると、彼女の足元に立って両手を差し出す。
夕陽は手を伸ばした。
手を引かれ、立ち上がって向かい合う…
2人きり。
両手を繋いだまま笑い合った。
『そうだね』
声も笑いも暖かな空気に溶けていく…
ザザーン ザザーン…
波の音。
聞こえるのは…それだけ…
潮風の匂い…
夏、だなぁ…
海風に靡く…髪
とっても変な気持ち…
変な…感じ…
大斗の指が、そっと夕陽の涙を拭った…
そして
そっと…近づく
大斗の顔…
なんとなく…
静かに瞳をつぶった夕陽…
チュッ…
唇だけ、触れる軽いキス…
ごく、当たり前の事のように、触れた。
大斗は片眉を下げて少し笑って夕陽をみる。
なんて優しい顔なんだろう。
2人を照らす…月
『なんか…ちゅーしたくなっちゃった…』
夕陽は瞳を真ん丸にして大斗を見る。
しかし次に、小さく
『そうね』
と笑顔で返した。
聞こえるのは波の音。
星に飾られた闇が2人を包んだ。
キスをしてもドキドキはなかった。
ただ気持ちが満たされたの。
変な感じ。
やっぱり違う世界に来てしまったのかもしれないな。
こんな不思議な気持ちは初めてだったから…
『帰るか』
"うん"夕陽はそれに頷くだけ。