『え…?』
『昔、俺んちに飯食いに来た大斗がさ、帰るからってうちん家、出たら泣いててさ…中学生の男だよ?しかもみんなに恐れられてる神崎大斗が。びっくりしたよ。さすがに何も聞けなかった』
『…』
『その後、咲ちゃんが大斗から聞いたのか色々話してくれた。大斗は自分のそういう事、俺にも自分からは全然言わないよ。』
恭次は夕陽の顔をしっかりと見て言った。
『ひぃちゃん…?それが答えなんだよ…』
『こ…た、え…?』
『そう。頼むからちゃんと向き合って考えてみてよ。ひぃちゃんは大斗の事、どう思ってるの…?』
そう言って恭次は出ていった。
…
どう…?
はぁぁ…
どうって…
『はぁ…』
夕陽は大きなため息を吐き片付けを始めた。
本当に…何もない部屋…
「ねぇ?弁当たまに作ってくんない?金払うから」
「これからも弁当作ってくれる?できるだけいつも…」
「でも、今は本当にありがたいって思ってるよ。いつも…」
変わらずベッドに置いてあるお弁当箱に視線を落とす。
……。
この部屋…
久しぶりに来た…
熱の看病したり…
抱き締められたり…
怒鳴られたりもした…
隣で寝てたり…
あの日…
咲さんの居なくなったこの部屋で…
大斗を、ただ…
温めたくって…
それしか
考えられなくって…
必死で…
抱き締めてしまって…
それで…
キスを…
あたしが…
キスをしてしまったのは…
それは…
―――ッ。
どうして…
また…涙が…
大斗を探しに行かなきゃいけないのに…
大斗は音楽室まで、あたしを探しに来てくれたのに…
なのに、足が前に進まない…
ぺたりと座り込んでしまった…
しばらくして瞳を擦ると滲む視界に映ったもの…
あ…っ
誕生日の咲さんのぬいぐるみ…