マスターはオレンジを大斗に投げつけた。

『まぁ何とでも言ってくれ。雪那を想って20年も経ってしまった。恋に関しては、本当は俺だって偉いこと言えねぇしな』

いつもは淡々としているマスターの普段と違う姿。

『大斗も燻ってると、あっという間に時間だけ経っちまうよ?』

諭すような言葉だった。

『雪那への秘密を打ち明けにね。お前を見てたら触発されちまった』

『なんだよ…それ?』

『人間らしく、悩んだりへこんでるお前見てたらね、負けてらんねぇって思ってね』

マスターは笑う。

少年の顔…

大人のマスターの本当の笑顔だろうか?

『俺はそう思ったのに、当の大斗はそんなだしなぁ。まぁしばらく俺は居なくなるから、お前は精々独りで苦しんで悩め。ちゃんと向き合えよ』

『向き合うって…何にだよ?』

『さぁね?頼るな。お前は結局、言うこともやることも自分勝手にしているようで、全て誰かの受け売りだ。』

マスターの言葉に大斗は何も言えなくなる。

『結局、人は独りなんだ。だがな、独りぼっちとは違う。それがわからなきゃお前はバカなままだ』

『そうだぞ、大斗。夕陽だって少なからずお前の事特別視してるよ。後はお前次第だ』

拓巳ははっきり言った。