夕陽の様子に大斗はイラつく。

〈ごめん…約束…守れなかった…〉

『もういい。』

大斗はそう言うと携帯を杏に渡す。

『神崎?』

杏の言葉に大斗は何にも答えずに教室を後にする。


〈…ぐずっ…。〉

杏が耳にする携帯から聞こえる夕陽のすすり泣き…

『ひぃちゃん…?』

〈あん、ちゃん…〉

『神崎、行っちゃったよ?いいの?ひぃちゃんは本当に家…?』

〈うっ…違う…今、Ledaに来てる…〉

夕陽の居る場所は、拓巳が働いていたカフェである。

『今から行くから待ってて』

〈…うぅっ…ごめ…ありが…と…〉


――――――


『ひぃちゃん?!』

しばらくすると杏がLedaにやって来た。


窓の外を見ながらぼーっとしている夕陽に声をかける。

夕陽は窓側の一番端に居た。


『あんちゃん…ごめん…』

杏に気付くとまた泣きそうになりながら向き直り口を開く。

『いったい、どうしたのよ?あんなに楽しみに「約束だ♪」って言ってたじゃない?』

普段は冷静な杏も少し戸惑っている様子。

『…。』


『ひぃちゃん…?』

杏は「話してくれる?」と言う顔で、夕陽を見た。

彼女は無言で頷く。

そして、ゆっくりと話し出す。

『さっき…屋上…行ったら、途中で…大斗と菜穂ちゃんが…話してて…』

『橘菜穂って神崎狙い、でしょ?』

『う…ん…。前にはっきり言われた…。大斗は気付いてなかったけど…菜穂ちゃんはあたしに気付いて…大斗が屋上入ってから、菜穂ちゃんに会っちゃって…』

『うん…?』

『2人の会話聞こえちゃって…大斗はね…咲さんが好きなんだよ。咲さん、NYの恋人の所に行っちゃった…けど、世界で一番大斗は咲さんが大事なの。それを改めて思い知らされた…』

『でも、今実際咲さんはいないんだよ?神崎はひぃちゃんと仲いいじゃない?神崎は、ひぃちゃんの事が好きなんじゃ―』

『違うよ、あんちゃん…大斗は、咲さんの代わりに…あたしに構うの…大斗にとって扱いやすいのが…たまたまあたしなだけ…』

夕陽は遮るように言った。

『そんな…』