『違うよ。悪いんだけど…今まだ帰れないから、とにかく菜穂ちゃんは帰りなさい』

とにっこり営業スマイルである。

大斗はとにかく早くこの場を切り抜けたい。


『はぁい…じゃぁまた明日ぁ♪』

菜穂は上目使いで言うと素直に帰って行った。


大斗は急いで夕陽に電話するが…

呼び出し音の途中でプツッと切られてしまう。


あんのヤロウ…


大斗はもうほとんど誰もいない教室に入って鞄を取る。

最後の1人が出て行くのを確認すると…


ガッコーン!!


その辺の机を思いっ切り蹴っ飛ばし教室を出て行った。


――――――


夕陽は携帯を切ると電源を落とした。


大斗は…しょうがないヤツ…

いちいち気にするのも今さらだよね…


わかってるんだけど…

なんだか電源切っちゃった…


そもそも何であたし気になるの…?

そんなの気にするだけ意味がない…

そんなのバカみたいじゃない…


はあぁぁぁ…



咲さん…


元気かなぁ…?


どうして…

今、咲さんの事が想い浮かぶのだろう…


大斗が好きな人だからかな…

大斗の大事な大事な人だからかな…


大斗は…今、咲さんの事…どう思ってるんだろう…


部屋…グチャグチャにしちゃうくらいの大斗の気持ち…


あれ以来…大斗は自分から咲さんの名前をほとんど出さない…


『咲さん…会いたいよ…』


最近の大斗はわからないんです…

考えてる事も…

行動も…


あたしをからかって楽しんでるのに

「遊んでない」とか言うし…


咲さんなら…

わかりますか?



あたしは…

無意識に空を見上げていた。


どうして、こんなにも悲しいと思ってしまうのだろう…


サァーッと吹く風に髪の毛を揺らされて自然と視線を変えた。

いつの間のか満開になっている校庭の桜の木。

それをを見たら酷くシンミリした。



ガチャッ。


ドアが開く音。