ハハハッと苦笑い。
夕陽はわけわからなくて、きょとんとしている。
『ホストだったんだよ…。他にも色々。あの頃はもうそりゃ色んな意味で酷くてね。人の気持ちなんて、うまく利用できたらそれで良かったんだ。』
しげさんが「俺」と自分を呼ぶのを、あたしは初めて聞いた。
『理由は違うけど、俺も前の大斗みたいに死んでるのと同じ状態だったから。だからアイツを見てると、昔の自分と重なってほっとけないんだ』
『…』
『ホストを否定するわけではないんだよ。言うならば心の問題でね。夕陽ちゃんはさっき咲の事を出していたけど、大斗は「ちゃんと考えること」をしない為に、咲に逃げていたんだ。咲も同じ』
『依存…ですか?咲さんが言ってたんです…』
マスターは頷く。
『大斗は今…必死に何かに依存しないで自分を見つめようとしている。人と、向き合おうとしている。大斗のその相手に一番近いのは君だよ、夕陽ちゃん』
しげさんの言葉はいつも深い。
『あたし…?』
大斗が向き合う相手があたし…?
どうして…
しげさんはきっと、色んな事を解っているのに、絶対に教えてくれない。
しげさんの言葉の意味を…
自分の想いを…
自らの力で「見付けなさい」と言う。
『ねぇ?しげさん。あたしはやっぱり大斗とずっと仲良くしていたいよ。』
『夕陽ちゃんは、大斗の事…好き?』
しげさんの言葉に重ねるようにあたしは言った。
『…大斗の事、好きだよ。だから大事すぎるから「恋」とは言いたくないの。絶対に言いたくない。「恋」じゃないの』
友達でいたいの…
しげさんの顔をしっかり見据えて言った。
『そうか。』
しげさんの顔が少し悲しそうだったけど、それはあたしの心を読んだからだと思った。
しげさんはきっと…
あたしより、ずっと「あたしの心の中」が見えている気がする。
今…マスターには、何が見えているんだろう…