『どうにか…って…』
どうすればいいんだよ…
『俺、夕陽ちゃんにホワイトデー返してないんだ。もたもたしてると今日がおわっちまう。早く連れてこい!!』
ガスッ!!
とマスターは大斗に蹴りを入れる。
大斗は鞄を見つめチッと舌打ちするとそれを持ったまま走り出した。
―――――
『夕陽ちゃん…?』
何も言わない夕陽に雅が心配になって声をかける。
『あ…あの、えっと』
あたし…
雅君の事は嫌いじゃない…
前のあたしだったら「嫌いじゃない」から付き合っていたはず…
でも…
―ッ
今はどうして涙がでるの…
嬉し涙でも悲し涙でもないの…
なんでこんなに泣けてくるんだろう…
『ゴメ…』
あたしは涙を流しながら、気付くと雅君に謝っていた。
『ごめんなさい…雅君の事は…嫌いじゃない…』
だけど…
『付き合う…事は…できない…』
自分の頭ん中は真っ白なのに、口は勝手にそう言っていた。
『やっぱり…神崎が好き…?』
すごく悲しい声で雅君が聞いてくる。
あたしは…思い切り首を横に振った。
『そんなの…思ったことない…』
この時のあたしは、確かに「大斗の事好きだ」と「思ったこと」なかった。
だって…「男の子として好きの対象」として「考える事」を自分で勝手に拒否していたから。
『大斗は友達。関係ない。嫌い…あんなヤツ。』
ボロボロ泣きながら答えていた。
『ごめん…な、さい…』
あたしは、その場に居られなくなって、雅君に深くお辞儀をして広場から駆け出した。
ダッシュで走った。
もう走れないってくらいになって、フラフラと止まると、自分が鞄を持っていない事に初めて気付いた。
どうしよう…
鞄は多分…スイートブルーにある…
家の鍵もお財布も携帯も全部鞄の中だ…
―――――
一方、大斗は当てもなく街を走っていた。
彼女の携帯にかけるが、持っている鞄の中から着信音が聞こえてきてしまい、危うくまた携帯を放り投げそうになった。