大斗はグラスを受けとると黙ってマスターを見つめる。
「大斗くん、いつでもここに来たらいいさ、君の居場所はどこにだってある」
芯まで冷えきった身体が真ん中から温まっていくような言葉だった。
初めて口にしたビールは決しておいしいものじゃなかったが、なんだかとてもホッとしてしまった。
カランカラン…
「あぁ雪那、来たんだ」
静かに扉が開き雪那はやって来た。
「何だかね、今日の雪がとても綺麗で…、あなたに会いたくなってね。」
と静かに微笑んだ。
「そうだね、来るんじゃないかと思っていたよ。今日は先にすごいのが2人も来たけれどね」
マスターはハハッと咲と大斗に笑いかけ雪那の前にカクテルを差し出す。
「咲、元気そうね。大斗くんも」
雪那はキズだらけの2人に対して何も言わず、普通に挨拶をした。
「蒼の降らす粉雪はいつも綺麗ね…」
そして、グラスの縁をなぞりながら雪那は言う。
マスターは笑うだけ。
"言ってること意味不明…"
「雪那さん!!大斗は今ね、"言ってること意味不明"って思っているよ」
「あら?そう。このカクテルの名前は"粉雪"なの。素敵でしょ?」
"恥ずかしい名前…"
「しげさん、今度は"恥ずかしい名前"だっ…」
「バカ咲。うるさい」
咲の言葉が終わらない内に大斗は小さく呟いた。
「んなっ?!!」
咲は絶句。
雪那はくすくす笑っていた。
「咲は何だかんだ言って、大斗くんに敵わないんじゃないか?」
マスターが柔らかく突っ込む。
「ブハッ!!」
咲としか交流がなかった大斗はマスターに言いくるめられる彼女を見て吹き出した。
何も言えなくなっている咲は大斗の前の咲とはまた違う顔。
ガンッ!!
と、咲の蹴りが入って大斗は椅子から身体が浮いた。
あっ…
ガッターンッ!!
という間に見事に転落。
「んなっ?!何すんだよブスッ!!」
大斗は大声で叫んでいた。