勢いよくドアを開けるとブスッとした大斗が立っていた。

何も言わず不機嫌にストラップを持って携帯を差し出す。


ふて腐れながら、でもとても悲しそうな顔をしていた。


『…ッありがとう…』

夕陽は下を向いて携帯を受け取り

『ごめん…』

と大斗の顔を見て言った。

瞳が合うと…


『悪い…』

大斗はバツが悪そうに呟いた。


ひろ、と…


『ゆ、雪…今年、初めてだね…?』


予想外に謝られてしまった。


夕陽も少しバツが悪くなり話題を変えようとパラパラ落ちる雪を見上げながらそっと呟いた。


『俺…スイートブルーに初めて来た日も、こんな雪の日だったんだ…』


―――――――――


「ひろとー♪何て顔してんのよ!?ってあたしもだねッボロッボロ♪そうだ♪ちょっと出掛けよっ?!」

大斗の手を引く咲に連れられてやって来た街の一角。


大斗が咲と迎える初めての冬のこと。


「雪那さんのね、特別な人がやっているの♪」

2人は見知らぬ人達とやり合って身体はキズだらけだった。


ハラハラ雪の舞う日。

半ば逃げるようにして咲に連れてこられたのはスイートブルーというBar。


雪に吹かれながらずぶ濡れで階段を降りていく。


「しっげちゃん♪」

「咲?!っ…たく。女の子がこんなボロボロで」

マスターはやれやれと柔らかく微笑んだ。


「君が…大斗くんかい?」

知らない人に名前を呼ばれてマスターを見て立ち尽くす大斗はただ頷く。

「しげちゃん、こいつあんまり喋らないけど、案外イイヤツよ♪」


"案外って何だよ"


「大斗はね今、"案外って何だよ"って思ってる」

くすくす咲は笑った。


大斗が言葉を発してひと月ほど経っていた。


「あたしね、ビール♪うーん…??大斗もビールかなぁ?」

マスターはまた微笑むと、ビールを入れたグラスを2つ差し出した。


「始めまして、大斗くんの事は聞いていたよ。咲がね、「見せたいヤツがいる」っていつも言っていたんだ。「見せたいヤツ」って失礼な言い方だけどね」