『ねぇ片桐さん。明日、学校行こうぜ?俺もつい面倒で行かなくなっちゃうけど、今日会ったのも何かの偶然だし。また明日学校で会おうよ』


つい勢いで出た言葉。


『何を突然。…でも、そうだね。あたしも頑張るよ』


夕陽は「出来るだけ…」と付け足しほのかに笑う。



『改めてよろしく、片桐夕陽さん』

『こちらこそ、神崎大斗君』


片桐さんはこんな別れ間際、やっとまともに可愛いと言っても良いと思える表情で笑った。


『早く彼女に電話しなよねぇ神崎君♪また明日!バイバーイ』

そして夕陽は「ちょっと街をぶらぶらするからここで」と手を振って歩いて行った。


だから彼女じゃないって。


大斗は彼女が行ってしまうと、携帯を出し着歴をだす…


―発信―


『もしもし、咲?…うん、俺。』


――――――


大斗と別れた夕陽は、洋服を買おうと街をブラブラ。

目ぼしい物はなくウィンドウショッピング。


段々夕方色に染まる街は、それにつられて歩く人も夜色となってゆく。


会社帰りのスーツの人達。

買い物帰りの若者。

今から遊びに行こうとハイテンションな高校生。


これからどこへ行くのか派手なメイクやブランド物で着飾る人達。


目的も格好も様々。


あたしも、その中を歩く一人。


風が涼しくなったのでシンミリしてきてふっと思う。


駅周りは、四季を感じるには緑が無さすぎるなぁ…。


額に入れられたみたいにコンクリートで囲められる数本の木からじゃ何を感じるのよ?


苦しそうで仕方ない。


忙しなく人は行く。


でも夕陽は街の楽しさを知らないわけではないから、こうして歩くのだろう。


街に居るのだろう。



ねぇ…拓ちゃん…

あたし、高校生になったよ…。


ネオンで煌めき出す街を歩く。


今日は夜遊びは辞めて家に帰ろう。

誰もいない広い家が寂しくて…。


でも…明日は学校に行くから。

折角入った学校だから、楽しもう。


こうして、夕陽は家路に向かう足を速めた。