何かを思い出すように言う。
『やっと…最近"生きてきた"って気がするの…。また夕陽ちゃんのお陰じゃないのかな?』
『違いますよ…ないです。大斗は会った時から今の大斗だったもん。きっともっと…前…』
きっと…大斗が咲さんに出会った頃から…。
『昔の話…少し、聞いた事、あります…』
夕陽は静かに言った。
『えっそうなの?そっか…?!』
と咲は驚いたように大きな瞳を見開いて彼女を見つめる。
『あの頃さ、あたし…大斗を見てられなかった…。それに、あたしは…付き合ってた人が外国に行ってしまって、自暴自棄になっててね。大斗に当たり散らしてた。それから次第に連れ回すようになって…』
ゆっくりと、でもしっかりと話す。
『アイツ、空っぽだったから何でもかんでも吸収しちゃって、あたしもバカだったから、それが面白くってね。』
と小さく笑った。
『そしたら…益々"愛"から遠ざかっちゃった。そもそも、あたしも"愛"なんてわかんなかったかもだけど…』
『咲さんと大斗は間違いなく"愛"です…』
夕陽は呟く。
2人を見てれば感じるもの…。
『そうかな?どうかな?"愛"ってさ、色々あって、確かにあたしは大斗を愛してるけど、でも…違うんだ。』
咲は「ちがう…」と更に続ける。
その気持ちは夕陽にはいまいち分からなかった。
「愛してる」なんてサラリと言えてしまう咲さんは、やっぱりすごいよ。
あたしにはそんな気持ちわからない。
拓ちゃんを"愛してる"なんて恥ずかしくって言えないし、言葉がおっきすぎて思う事すらないかもしれない。
『ほら見て、アイツあんなでしょ?あたしが教えちゃったの、後マスターと…』
咲が顔を向ける先には、大斗が常連客の女の人と久しく話す姿…
『思ったことはやれって、やりたいことはやれって、いつか気付くまでは。自分で大事なものわからなくちゃ意味がないって。だからアイツは何でも本能的にやるの。あたしもそう。大斗のそんなところ、あたしに似ちゃった』