『夕陽ちゃんって料理するの?』

『え?そうだけどなんで知ってるの?』

『いつも料理の本見てるでしょ?』

気付いてたんだ。

『親が留守が多くて…』

この頃から親はあまり帰って来なかった。

『だから、自分で作るか、カフェにご飯を食べに行くんだ…』


あたしは少しだけシンミリして言った…


『そうなんだ…。ねぇ…、夕陽ちゃん…、そんな寂しそうな顔しないでよ…。……俺居るから』


えっ?

拓巳君はいつもの笑顔を少し赤らめて言った。


『俺、夕陽ちゃんの事、好きになった。付き合ってほしいんだ。夕陽ちゃんに好きな人が居るのは知ってる。でも…考えてみてほしい…』


うそ…

考える必要なんてない。


あたしは死んでもいいかもと思ってしまった。

いや、びっくりしてきっと一瞬、魂が抜けてたと思う。


顔が真っ赤なのが自分でも良くわかった。


拓巳君の"好きな人"は"あたし"…?!


『あた、あたしも…た、拓巳君の事、好き…』


どもりまくって答えた。


少し驚いて彼はあたしを見る。

そして笑った。


その笑顔が好き。


春過ぎた気持ちの良い5月の夜。


拓巳君があたしを"夕陽"と呼ぶようになった日。

あたしが"拓ちゃん"と呼ぶようになった日。


それは、お互いが"特別"になった日だった。



初めての"恋愛"はドキドキが沢山で…絶えず心臓が一度に何個も動いているみたいだった。

何もかもの初めては拓ちゃんだった。