呆れて大斗は声をかける。
 
『あ。大斗…』

ナンパしていた男は気まずそうにすーと居なくなった。

夕陽は、ぼーっと鞄をあげて、


『宿題…届けに来たの…』

と小さく言った。

『お前さぁ、今何時だと思ってるの?どうやって来たわけ?』

『徒歩…』


なんだ?また変になってるコイツ…


『あのなぁ?タクシーとか何かあるだろ?お前一応女の子だろうが??』

いつもと違ってトーンの低い大斗の声。

明らかに怒っている。

『だって…』


だって…家に居たくなくなっちゃったんだもん。


言葉にならなくて、大斗を見る。

『数学貸して…?』

次に口を開くと彼女はそれだけ絞り出した。


大斗は、はぁあ~…と大きくため息をついて、

『今日バイクじゃないんだ。どのみち数学のノート家だから、歩いてくぞ』

そう行ってスタスタ歩き出した。

夕陽は何にも言わずについていく。

大斗の少し後ろを早足で追いかけた。

2人は何にも話さなかった。



大斗のアパートに着くと、彼はすぐに数学のを持って出てきた。

夕陽はそれを受けとると、

『ありがとう…あの時大斗が来なかったら、あたしうっかりナンパに付いて行ってたかもしれない…』


絶対にまた流されてたと思う…


『お前さ、バカだろ?』


マジで呆れる。本当にコイツ、訳わからん。


『とにかく、危ないから夜中に独りで歩くのはやめろ。』

夕陽は大斗の顔を見たまま何も言わなかった。


『俺、ちっちゃい頃、家の近くのコンビニ行くの、結構怖かったんだ。思い出す。きっと女の子だって怖い気持ち同じだろ?もっとリアルに何かあったらヤベェだろが。』

夕陽に背を向けバイクを移動させながら大斗は言った。


夜中のコンビニ…大斗がご飯買いに来させられてた時だ…。

自分の都合で心配かけちゃった…。