「失礼します。」

研究室に着いた僕は呼吸を整え、出来るだけ平静を装いながら少し重たくきしむドアを開け中へ入った。


「おー、来たなぁ有名人。今日は前回の呼び出しより来るのが早かったじゃないか。」

熊田哲助=クマテツはまさに名前の通り、おおよそ音楽とは縁遠い、むしろ体育教師といった巨体をこちらへ向け、一見温厚そうな笑みを浮かべながら太い剛毛だらけの腕を上げた。


「僕が呼ばれたのは、中間考査の課題発表の件で…ですよね?」

「そうだ。まぁ、お前達に関してはああいう事は珍しくはないんだが…。やっぱりあの仕上がりじゃぁ評価を出すのは難しいぞ。」


(ほら来た!この笑顔の裏に隠された現実…ああ~やっぱり。そうだよなぁ…。)

僕はすっかり意気消沈すると、ガックリと肩を落とし、リノリウム製の床の市松模様に視線を落とした。