なのに………



…………なんで…?




私がキッチンから離れようとしてるのに 

拓真くんは私の手首をなかなか離してくれない。 



どうしたのかな?
なんか様子がおかしい気がする。 


「拓真くん…?私、帰らな………きゃっ!?」



ふいに手首を掴まれてる力が強くなったかと思うと勢いよく引っ張られて拓真くんの胸に飛び込んだ。 



「…シャワーならここで浴びてけばいいだろ?」


そう呟かれて、ぎゅっと力強く抱きしめられる。


ドクン


胸が音をたてる。 


私の耳もとにある拓真くんの胸からも一定のリズムで聞こえてくる音。 



「麗花真面目すぎ。1日くらい大学行かなくたって大丈夫だよ。」 



更に強く抱きしめられて、どうしていいか分からなくなる………



嬉しいけど、素直に喜べない。 


だって、私があのコップを見たことくらい拓真くんも気付いてると思う。 


なのに、顔色ひとつ変えずにこうやって私を抱きしめてる拓真くん。 



やっぱり、私のことなんて、なんとも思ってないんだね……