どうやら誉木の家はずいぶんと厳しいらしい。
放任主義の僕の家とは大違いだ。
「…誉木、クレープ食う?」
「はいっ!」
たまたま視界の端に映ったクレープ屋。
僕が食べたくなっただけ。
嬉しそうにクレープにぱくついていた誉木は何かを見て動かなくなった。
「誉木?」
「摺月くん。…わたし、あれ乗りたいです…」
「あれ?」
誉木が指差した物。
それは、この田舎街のほぼ唯一とも言える観光スポット
巨大観覧車だった。
「いいぜ?乗ろう」
正直、これに乗るのは初めてだった。
うん、中は結構広い。
誉木は中から見える外の景色に感動していた。
「そういえば摺月くん、『普通のデートは中一以来』とおっしゃってましたよね?」
「ん?あぁ、ほら…俺こんなナリだから、今まで普通の女と付き合うことなくて。
デートとかはしないでいつも家で過ごしてた」
遠くを見ながら、吐き捨てるように言った僕を、誉木は悲しい目で見ていた。
それから会話を続けにくくなり、どちらからともなく
口を閉ざした。
.