「…そういえばっ」
なんとなく気になって
冴島さんを引き止める


「えっ…何?」
振り向いた冴島さんの表情は逆光で見えない




「…伊崎と付き合ってるの?」

少し迷いながらも
なんだか気になって
そんなデリカシーのないことを聞いてしまう


「…瑞貴に聞いたの?」
「…うん、まぁ」

冴島さんの声が少し震えた気がして

表情を読み取ろうと目を凝らしてみたけど
西日が眩しくてやっぱり見えない



「つきあってるよ」

呟く様に冴島さんが言う



「…ふぅん」

瑞貴が冴島さんを好きかどうかも定かじゃないのに

なんとなく

冴島さんと伊崎が別れていればいいな

なんて

安易だな、俺

「橋本君こそ松浦愛美ちゃんと付き合ってるんじゃないの?」

冴島さんが近付いてきて俺を覗き込んだ



「まさか」

笑ってごまかす


「陵!」

振り返ると瑞貴が何故か休んでるくせに制服を着て立っていた

「瑞貴!」
「どーしたんだよ?」

不自然なくらい
冴島さんを無視して

瑞貴が振る舞うから

どうしていいかわからず冴島さんを見たけど

冴島さんは静かに笑って
「私帰るね」と呟いて歩き出す



「とりあえず中入れば?」
瑞貴に引っ張られて

なすがままに家に入る



「あらっおかえり」
瑞貴の母親が何事もなく俺達を迎え入れる

まるで

瑞貴が学校を休んだことなんて知らなかった様だ

制服着てるしそうなんだろう、きっと

「何で休んだんだよ?」
呆れた様に俺が聞くと

少し考えてからいつもみたいに笑ってみせる
「ちょっとね」