空白になった時間を埋める様に街をさまよう

マックもネカフェもゲーセンも

騒々しくて

吐き気がする



ようやく辿り着いた本屋で適当に何冊か雑誌を立ち読みしたけど光沢のある紙にプリントされたカラフルな写真やイラストが反抗的に思えて嫌になった

ヤリチンってか…

ゴリラの台詞を思い出してやりきれなくなった

そんなふうに見えるのかな、俺

周囲が思ってる俺の虚像が本当の俺自身にまとわりついて、からみついてほどけない

そんな答えのないしがらみから逃げる様に再びさまよいだした俺はいつの間にか文庫本コーナーへ辿り着いた

ブルーな日というのはどこまでも人を落胆させてしまう

高校に入学してから自分の心が急に成長期に入って、正直戸惑ってしまう

そんな漠然とした途方もない悩みを抱えて

俺は同じ背表紙が並ぶ実に地味な文庫本コーナーの棚を焦点も合わさずにぼんやりと眺めていた



トン

肩にかけてたバックに軽い衝撃を感じて振り返る

「…あ、ごめんなさい」
かすれた様な小さな落ち着いた声で謝られて

なんとなくこっちも会釈だけする

濃いグレーのスーツ姿のそのOL風の女性は長いストレートヘアを後ろできゅっと束ねてシルバーのフレームの眼鏡をかけている

その人は探していたらしき本を棚から選び出し颯爽とレジへ向かう

年はぱっと見で10個くらいは上の大人のお姉さん


すごく美人なわけじゃないけど整った顔立ちにしっかり化粧をしていて

キレイな人だった

なんとなく興味を持った俺はその人が見ていた棚の一冊分の隙間の両脇の背表紙を見てみる

さくら…きり?

かすみか…

桜霞という作家の並びに一冊分だけ空いた空間が妙に気になる

「…あの、ここの間にあった本、今売れちゃったんすけど、在庫ってありませんか?」

隣の棚の整理をしていた店員をつかまえて同じ本を出してもらう

[Perfume]

ただなんとなく恥ずかしくなりながらも俺はレジに向かった