「なんで嫌いなの?伊崎のこと」
駅のトイレで私服に着替えながらドアの外の瑞貴に話しかける







「…なんとなく」
少しの沈黙の後瑞貴が呟く


「まぁ、俺も好きではないけど…」




着替え終えるとトイレを出てまた歩き出す



「伊崎…愛美の事好きなんじゃないかな」

今日の一連の出来事を振り返ってみて、やっぱりそうとしか思えない

「…そうかもね」
無表情のままの瑞貴も頷く



「…でも」
「…でも?」

「伊崎、彼女いるよ」

少し不満げな横顔で瑞貴が呟いた

「マジで?」
「マジで」

「…冴島さん?」
俺は数ヶ月前の玄関での出来事を思い出していた

「…何で知ってんだよ?」
「ちょっとね」
驚く瑞貴に少し得意げにしてみせる



瑞貴はふぅんと鼻で答えて
なんとなく空を見上げる

「…美央とは、冴島美央とは幼なじみなんだ」



「えっ瑞貴と?」
瑞貴が頷く

「えっ冴島さんが?」
瑞貴が頷く

「中学は違うから陵は知らないだろうけど幼稚園も小学校も一緒だったんだ」



冴島美央は愛美と同じくらい男子にモテる

でも愛美と違って派手な化粧や髪型はしない真面目で清楚な女の子だった

真面目な感じがとっつきにくくて俺は話したことなかったけど

瑞貴と話してる所も見たことなかったから二人が幼なじみだなんて全然知らなかった



「…でも、あんまりうまくいってないんじゃないかな、伊崎と冴島さん」


数ヶ月前のあの日だって


清楚で大人しい冴島さんが悲鳴の様に叫んでいた事を思い出していた


「そうみたいだね」

瑞貴の表情がやっぱり沈んでいる様に見えて

なんとなく

瑞貴が伊崎を嫌いな理由がわかった様な

そんな気がしたけど



かける言葉を見つけられない

不甲斐ねーなぁ