愛美を振り払って教室に戻ろうと歩き出す



「…陵ー…」
愛美の嗚咽が聞こえる

角を曲がって少し立ち止まる

やり過ぎた?

罪悪感がないわけなかった

「女の子には優しくした方がいーんじゃなかったのかよ」

教室に入ろうとする俺の前に伊崎が立ちはだかる


いつものイヤミとは少し違う態度に一瞬ひるんで一歩だけ後退る

伊崎の筋肉質なガタイは間近で見ると

いつにも増して迫力があった

「…どけよ」
俺より10センチ以上背が高い伊崎に見下ろされているのがしゃくなのと愛美を泣かせて居所の悪い腹の虫のせいで

いつもより強気に出てしまう

「愛美と付き合ってやれよ」

「…は?」
伊崎の思いがけない言葉に呆気にとられる

「お前彼女いねーんだろ」
馬鹿にした様に
見下した様に


クラス全体に響き渡る低くかすれた、でもよく通る伊崎の声


怒りが込み上げて
顔が熱くなる


「つーかお前に愛美はもったいねぇか」
伊崎に鼻で笑われて

思わず伊崎の胸倉を掴みそうになった瞬間

「ってか陵、彼女いるじゃん」
聞き慣れた

伊崎よりも遥かによく通る瑞貴の声で

クラス中が静まり返る



次の瞬間

「えーっ!!」
「誰!?」「ウチの学校!?」
女子が騒ぎ始めて
伊崎が舌打ちをして教室を出て行く



その日は一日

女子はもちろん男子までもが詮索してきて



うんざりで


瑞貴の方を見たけど
瑞貴はその日中ずっと

机を抱くように
うつぶせていた