諦めたのか瑞貴は少し後ろを歩き出す




「あれっ帰んないの?」
乗り継がずに改札に向かう俺を瑞貴が追い掛けてくる



「…んーちょっとぶらっと」


夕方の街の喧騒の中を無言のまま歩く

歩くというよりは流されていく



交差点の青信号が点滅しはじめて周りの人達がかけ足になるけど

俺は素直に立ち止まる

瑞貴も俺に追い付いて横に並ぶ



交差点の向こう側をぼんやり眺めると堅苦しいスーツを着たサラリーマンが不自然なくらい規則的に並んで居る
「…俺らもあーゆー風になるのかねぇ」

瑞貴が呟く

「…やべ」
俺は回れ右をして反対側に向かって歩き出す

「えっ…ちょ…陵!!」
俺を追って瑞貴もついてくる

瑞貴の腕を引っ張って、すぐ横のビルの脇に隠れる

交差点の向こうのサラリーマンの中に混じって居たのはOL姿の鈴子さんだった



「どーしたんだよ!?」
瑞貴が小声で俺に詰め寄る

「しっ」
俺達が隠れて居るビルの横を鈴子さんが通った

横にはキチンとしたスーツを着こなしたサラリーマンが寄り添って楽しそうに会話している

鈴子さんが通り過ぎるのを待ってから俺達は何事も無かった様に交差点に戻った


「今のが陵の好きな人?」
仔犬みたいに黒目を輝かせる瑞貴

「…お前ほんとデリカシーとかないのな」

俺はカナリ落ち込んでいた

そういえば

彼氏がいないなんて
一言も言ってなかったもんな

いないはずないよな

「…今の彼氏じゃないと思うよ」
瑞貴が俺の気持ちを察してくれているのはわかるけど気休めなんか沢山だった

言い返す気力も出ず

ふらふらと吸い寄せられる様にマックに入る

「…コーラL」
「ふたつねっあとポテトもLで♪」

2階窓際の隅に並んで座る

「でも…なるほどね~陵って年上好きだったんだね~納得~そりゃ愛美とか同級生とかには興味わかないよね」

「…たまたまだよ、たまたま年上だっただけ」