ドンッ

「…ってー」

打ち付けられた背中が鈍くしびれる

「お前調子乗ってんじゃねーぞ」

ドラマみたいなベタな台詞が笑える

「何笑ってんだよ」

「…すんません」

ゴツッ

…謝ってんのに殴るし
早く終わんねーかなぁ

ゴツッ
バキッ

「人の女に手ぇ出してんじゃねーよ、ヤリチン」

シンプル過ぎるヤンキー漫画みたいな展開に笑いをこらえて噛んだ唇に血の味がにじむ

やってないすよ、あんな汚ねぇゴリラ顔の女となんて

言いかけたけど
その価値もねぇな

いーから
早く終われー



「ほんとすいませんでした」

ボフッ
なんのためらいもなく土下座する俺にトドメの蹴りをかまして
ゴリラ女のゴリラ彼氏と手下達が立ち去った

痛ってぇ

「綺麗な顔が台なしだね」
「見てたなら助けるとかすれば?」
「助けて欲しかったの?」
「…別に」

一行が去った後にうなだれてる俺を瑞貴が見下ろしている

高野瑞貴は唯一トモダチって呼んでもいいかなと思う男で

って別にそんな仲良いわけじゃなくて

たまたま中学からの腐れ縁で

なんとなく…自分と同じ匂いがする

そんな気がするだけ

男っつっても女より小さいんじゃねーかって程チビっ子で

更にいうなら顔もそこら辺の女より可愛い

別にゲイじゃないけど本当にそう思う

「でもよく出来たよね、陵ってB専?」
「まさか。俺、童貞だよ?」
「ははっよく言うよ」

…よく言うよ、マジで。




マジで。

マジで童貞だよ?俺



ヤリチンどころか彼女すらいないしね

たまたまちょっと可愛い顔に生まれてきた俺は

童貞なのにヤリチン呼ばわりされる程モテてて

たまたまクラスメイトのゴリラ顔の女子にも気に入られてて

たまたま日直が一緒になって昼休みの空き教室で一緒に日誌を書いてたら

積極的過ぎるゴリラ顔の女子にキスを迫られて

嫌がって逃げようとして取っ組み合ってる最中を

たまたま目撃したゴリラ彼氏に抱き合ってたとか因縁をつけられて



現在に至るわけで




無実の罪で殴られちゃった可愛いそうな俺
橋本陵―17歳