ある日、彼女はぼんやりと外を見ながらこう言った。


「何故生きるの」


ベッドに腰を沈めて、どこか遠くを思い描くような瞳はどこまでも漆黒。
けして光を映さない、絶望の色だけを覗かせる。

わたしは問うた。


「何故死を望むんだい」


彼女の手首には白い布が隙間なく巻かれていた。
所々赤く染まった包帯を彼女は欝陶しそうに睨む。
所謂、自傷。
自らの手で自らを傷付ける彼女は一体何を考えているのだろう。
わたしは包帯をゆるゆると撫でた。

彼女は答えた。


「生きる理由がないから」


そして続けて問うた。


「アナタには理由があるの」


彼女は包帯を撫でるわたしの手をじっと見つめている。
その瞳には拒絶でもなく安堵でもなく、ただ困惑が揺れていた。

私は答えた。


「理由なんてないさ」


そして続けた。


「あなたは、生きる理由が"生きること"だったら生きるのかい」


そう問えば彼女は今日始めてわたしの顔を見た。
わたしを見上げる彼女の肌は白を通り越し青白く、生気のない人形のようだ。