「痛かった?」

いつものように正門からでなく西門から校内を出て線路沿いを
駅とは反対方向に歩き、高架下に設けられた日当たりの悪い公園の
ブランコに座って右のつま先で砂に弧を描きながら私は言った。

「ううん、全然、ていうかママが仕事に言った後、
 シンちゃんが私の部屋に来てワインを開けようって言って、
 いつの間にか酔っ払っちゃって、起きたらそうなってたって感じ」

彩紗は狭い公園の端に乗り捨てられたサドルのない自転車の前にしゃがみこんで、
ペダルをいじりながら黙って話を聞いていた。

「シンちゃん、ママと別れるって言うんだよね」

私は足を地面から離して前に突き出し、その勢いでブランコを少し揺らして聞いた。

「茉莉恵はシンちゃんのことが好きなの?」

錆びたブランコのチェーンがキィと鳴って聞き取りにくかったのか、
ブランコの前にいた茉莉恵は私の座るブランコの横に座りながら答えた。

「私は別に、まぁ揉めたくないし、けどシンちゃんは私の事が好きみたいよ」

「シンちゃんっていくつー?」

私は膨らんだ好奇心を紛らわすかのように、ブランコの揺れ幅より大きく足を動かした。

「29」とだけ茉莉恵は言って、ブランコをこいだ。

オヤジじゃん、と私が言おうとしたら彩紗がこちらを向いて、
「ロリコン?」とつぶやくように言った。