そのとき体操着の上からPコートを羽織った彩紗が教室に入ってきた。
「おはよー」
そう言って微笑んだ彩紗の鼻先は赤くなっていた。
「え?テスト期間中なのに朝練?」
私が思ったことを茉莉恵が言った。
「いや今週ウチ、部室掃除の当番でさ、運が悪く」
「そんな不運なトナカイさんにこれあげるよっ」
私はそう言ってほっかいろを彩紗に渡して、自分の席に向かった。
「あいつ、絶対もういらないからだべ」
茉莉恵の口調はころころと変わる。
だべ、と言ってみたり、ええ、と返事をしてみたり。
それはお行儀悪く足を投げ出して座る彼女と、
放課後スカートの丈を短くウエストの位置で調整している彼女とが
別人のようであることに似ていると思った。