そんな母親のことを、茉莉恵はいつも自慢げに話した。

「うちのママはね、アジアの言葉がいくつも話せて、その翻訳の仕事をしているの」

私は母親のことを「お母さん」と呼ぶから、
「ママ」なんて言う人のことが幼稚に思えた。

だけど大人びた彼女がそう【発音】すると、それがとても優れているように感じた。

そして母親の彼氏は年下で、大学病院で麻酔科医をしていること。
その二人とよく東京のオシャレなレストランに行くこと。

まるでドラマのような世界感の広い話をいくつもしてくれた。

二人がシティホテルに部屋を取り、そこに宿泊するときは、
茉莉恵の部屋も別に用意されていて、その部屋で一人、彼女は優雅に過ごす。

どこのホテルのバスローブがお気に入り、などと言う彼女を私は、
「大人ぶって」と思っていたけれど、
どうやら彼女は13歳にして本当に大人になってしまったようだ。




ママの彼氏のことを茉莉恵は、

「シンちゃん」と呼んでいた。