予想外の彩紗の台詞に顔をあげた。
「え?」
「あの女の子たち見て、タケルと涼くん、完全に焦ってた」
「だよね?」
「うん、けどそれってもう恋に落ちてるね、ももちゃん!
あーついにあなたも汚れてしまうのですか」
「は?!ちょ、バカ彩紗!」
私は左肘で彼女のわき腹を強く押した。
「痛っ、ほらぁ、その言い方とか、茉莉恵にそっくりだ」
まだ何も起きていないのにからかわれる照れくささに動揺して、
怒ったフリをするのが精一杯だった。
そんな私を見て笑った彩紗の薄化粧をした横顔は、
夕日に照らされているせいか、とても大人びたものに見えた。
期待と不安とが入り混じった初夏の午後、
少しずつ、変わっていく自分たちを感じていた。
もうすぐ、中学最後の夏休みだった。