恭姫は、カタンカタンと脇目も振らずに機織りに勤しんでいる。僅かの間に布目は揃い、その速さも周りに引けを取らないほどに腕は良い。真っ白な布を、簡素な身なりとは言え、誰もが認める美貌の姫が織っているその姿は、どこか神話の世界の話のようだ。
ふう、と恭姫は息をついた。手を止めると、綺与を呼んだ。綺与は恭姫に見蕩れていたのに気付き、はっとしてそちらに向かった。
「織り終わったわ。ここからの糸の始末を、教わった通りに出来るか不安なの。見ていて」
「ええ」
不安とは言うが、一度教えたきりの糸の始末を、恭姫は手際よく進める。時おり綺与の顔を見て問うので、一つ一つ頷いて応えた。
恭姫は自分で織り上げた白い布を手にした。元はただの糸であった。それを織機を通してこの布になった。何かを作り出すことの喜びが、ふつふつと胸に湧いてきた。
綺与は、恭姫から巻物を受け取った。そしてそれを、他の白い巻物とおなじ箱に仕舞った。
「え」
恭姫が小さく言葉をこぼした。
「その箱は」
「他の布と一緒に、うちの品として納めますよ」
恭姫の布は、綺与の店の品として何ら遜色のない出来だということだ。
恭姫は胸が弾むのを確かに覚えた。自分が織った布はどこへ行くのだろうかと、恭姫は箱に書かれた見慣れない言葉を読む。そこには「光召院」とあった。