石造りの廊下には毛脚の長い織物が敷かれ、窓からの光を受けてそこは明るい。外はよく晴れた秋の日だが、章王は外を見ない。娘に与えた華美な品々が廊下に並んでいる。足を止め、懐かしそうに見入る。これは十歳の生誕の宴で与えた物、これは五つのときに旅の一団からねだった物。一つ一つに、過ぎ去った日の恭姫の姿を思い出す。
「陛下、評定の刻限でございます」
側近が声を掛ける。章王は目を伏せ、小さくため息をついた。廊下を再び歩き始める。
「行こう。今日の話は」
「まず北の穀倉地帯の不作の救援と、次に南部林業の大雨の被害報告、それから……」
言葉が途切れた。章王は、目で問う。
側近は窓の向こうを指した。
「姫様の馬車が」
城の前を通り、門を目指している。章王もそれを見た。
「城下に行くのだ」
「ああ、綺与の機織場ですね」
恭に歳の近い女達が、美しい布を織り上げる場だ。美しいものが好きな娘には、心の慰めとなっているだろう。
章王はそう思いながら、細く息を吐いた。
「姫様は長年の織り子に引けを取らないほど、早く正確に織るそうです」
側近は誇らしげに言う。
章王は、側近をじろと睨んだ。今、何と言った。
「姫様は」、「織るそうです」と言わなかったか。
「恭が、機織りをしているのか」